思いつきだけの話
「おうおうおう、兄ちゃん兄ちゃん。人にぶつかっといて謝りもせんで行く気ぃか?」
「今謝っただろ?」
困惑半分、苛立ち半分という体で、スーツの男性は眉を顰めながらそう返す。
ぶつかった相手が強面のお兄さんであれば平身低頭……という場面であったかもしれない。
だが、実際に因縁をつけてきているのは、少女と呼んで差支えない年代の、それも際立って線の細い女性だ。
ノースリーブから突き出た腕も、スカートの裾から覗く脚も、折れそうなほどに細く白い。
つまり、脅しの言葉もまるで迫力がなかった。
したがって、脅されている男性の顔にも怯えの色はまったくない。
にもかかわらず、少女はしつこく食い下がる。
「謝罪いうんはな、こう、ちゃんと形にするもんやで」
そう言いながら右手の親指と人差し指で作った輪っかを顔の前にかかげる少女に、男性がはっきりとした苦笑を浮かべる。
色々と古典的に過ぎる言動と、そしてあまりの迫力のなさについ漏れたのだろう。
意外といい人なんだな、と思う。
無視してすぐにとっとと行ってもよかっただろうに。
だが、さすがにそれもそこまでで、男性は小さくため息を吐いて歩き出す。
「悪いけど忙しいんだ。タカるなら他当たって」
「あ、待たんかい!逃げんなや!」
少女がいくら絡んでも、もう男性は足を止めなかった。
その姿がすぐ先の地下鉄への階段へと消えていく。
「なんやねんケチ!」
その姿を見届けた後、悪態を吐きながら少女もまた歩き出した。
男性とは反対方向に歩いて行くその少女の後ろをそっとついて行く。
しばらく歩いた後に方向を変え、少女は脇道へと入った。
そのすぐ後に続く。
角を曲がってすぐのところに、先ほどの少女がこっちを向いて立っていた。
「どう?野中氏。上手くいった?」
白のノースリーブから突き出た白い手で、少女――春水は、先ほどと同じように親指と人差し指で作った輪っかを顔の前にかかげている。
この国では、そのサインに「お金」の意味と「OK」の2つの意味があるらしい……ということを美希が知ったのは最近だった。
「Of course」
ニヤリと笑い、親指を立ててそう応える。
そして、さっきの騒ぎの間に男性のカバンから抜き取ったSDカードをつまんで振ってみせる。
「よっしゃー!さすがはーちぇるコンビ、息ぴったりやな」
「Sure」
ガッツポーズを作る春水に、美希は再び親指を立てた。
正直なところ、しばらくの間気を引きさえしてくれればよかっただけなので、相方が誰であろうとあまり関係はない。
実際、似たようなことをこの前真莉愛と組んでやったばかりだ。
けれど、せっかくいい気分の春水に対してわざわざ言うべきことでもない。
何より、自分たちはなんだかんだいいコンビだと、美希も思っていた。
「けど思たより時間稼げへんかったわー。こんな可憐な女の子にぶつかっといてあんなすぐ行ってまうとかありえへんと思わん?」
「うーん、あんなものじゃないかな。まだ立ち止まってくれた方だと思うよ」
正直なところを口にする。
基本的に他人に無関心な街だということは、ほんの数日過ごしただけで分かった。
無関心でいる方が安全ということもあるのかもしれない。
事実、ああやってちょっと立ち止まったばっかりにあの男の人は痛い目に遭ったわけだし。
本当に痛い目に遭うのはこれからだけど。
まあ、He asked for it――この国のことわざで言うところの「自業自得」というやつかな。
だが、春水は納得がいかないようだった。
「あかねちんが立てたあの作戦があかんかったんちゃう?もっとこう、色仕掛け的なんでいってたら……」
「それだったら立ち止まってもくれなかったんじゃないかな」
「はぁ?どういう意味やねん!」
春水の「What do you mean?」の問いかけに対し、無言の視線で応える。
「胸を見んな!どういう意味やねん!」
再度の問いに対して今度は両の手の平を上に向けて肩を竦めると、美希はスマートフォンを取り出した。
手早く「任務完了」のメッセージを送る。
すぐに「おつかれー」という文字とスタンプが返ってきた。
「さあ、じゃあ帰ろうか」
「えー、もう帰んの?」
「ここからが本番じゃない。早く帰らないとあかねちんに怒られるよ」
「そやな、あかねちん怒らせたら意外と怖いからなあ」
諦めたように春水がため息を吐く。
その肩をぽんぽんと叩き、美希は自分たちの事務所の方へと歩き出した。
なんら続きません。
設定的には便利屋みたいなのをやってるんだと思います。
12期って書こうと思ったら書けるのだろうか…?とふと思ってノープランで書き出したものの、書ける書けない以前にあろうことか2人しか登場させられずあとは名前だけ出してお茶を濁した的な感じです。
そして、やっぱり書けないなと分かりましたw
ファンとしての情熱の減退に歯止めがかからない現状が表れています……
というかこういうこと自体すごく久しぶりにやったので、完全に書き方そのものを忘れています。
もうダメだ。
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